欧州単一特許と統一特許裁判所(UPC)に関する質問と回答

ヘッダー画像:Epo.org

欧州単一特許と統一特許裁判所(UPC)を含む欧州の特許パッケージは、英国のEU離脱後の不確かな時期を経て、近い将来に現実のものとなることが予想されます。留意点は以下の通りです。 

欧州単一特許とは?

欧州単一特許は欧州特許庁(EPO)により付与される欧州特許です。特許が付与される時点で単一特許を受け入れているすべての欧州諸国における単一効特許とされます。これは付与後の欧州特許が国内特許の「束」となる現行のシステムと対照的です。

単一特許は「従来の」欧州特許に置き換わるものですか?

いいえ、単一特許は「従来の」欧州特許と並存する欧州特許出願の新たな選択肢です。欧州特許庁による現在の申請と審査の手続きに変わりはなく、特許が付与されるまでに新しい単一特許か従来の欧州特許のどちらを選択するかを決定する必要があります。

単一特許を選択する方が良いですか?

単一特許と従来の欧州特許のどちらを選択するかは出願者の事業戦略により異なります。数か国の欧州諸国にのみ事業上の関心がある特許所有者はおそらく単一特許の利点は小さいといえます。EU全体に事業上の関心があり、多数の国で欧州特許の有効化を計画している特許所有者は単一特許により大幅な経費削減を見込むことができます。もう一つの点は、単一特許はたとえとして「1つのかごにすべての卵を入れる」と表現されることがあります。これは特許が単一特許の承認国全体で成功するか失敗するかのいずれかの結果になることを意味しています。

単一特許と従来の欧州特許は費用面で違いがありますか?

多数の国で欧州特許を有効化する特許所有者は単一特許を選択することにより、有効化手続きの費用と年間手数料を大幅に削減できる利点があります。英語の欧州特許についていえば、単一特許ではEUの任意の公用語への単一の翻訳の提出のみが必要とされます。一方、単一特許制度を採用していない国では、翻訳と有効化の要件は従来と同様です。
また、単一特許では年1回の手数料のみで済むため、年間手数料が大幅に削減されることが期待されます。この手数料は有効化手続きの件数が最も多い国(現時点でドイツ、フランス、英国、オランダ)の4か国の支払要件となっている年間手数料の合計として規定されています。ただし、一部の国では単一特許の要求を破棄した場合でもこの手数料は減免されません。

統一特許裁判所(UPC)とは?

統一特許裁判所(UPC)は唯一の特許専門裁判所で、中央部(Central Division)のほか、パリ、ロンドン、ミュンヘンの支所、デンマークの地方部やルクセンブルクの控訴裁判所などの地方や地域の支部があります。UPCは当初はEUの数か国のみを管轄としていましたが、将来的にはEU全体に拡大されることが予想されます。EPCは単一特許を採用しているEU加盟国の単一特許と従来の欧州特許の有効性と侵害性を審判します。

画像 : Epo.org

欧州特許に関して統一特許裁判所(UPC)ではなく国内裁判所の利用を継続したい場合はどうすればよいですか?

上記の通り、UPCは従来の欧州特許も管轄しています。ただし、UPCが審議を開始する前に免除申請を提出することにより、既存の欧州特許についてUPCの適用を受けない選択をすることが可能です。UPCの適用免除は、UPCのシステムが開始された後に付与された欧州特許について、少なくとも7年間の長期移行期間内に申請することもできます。このためには、特許が従来の欧州特許として有効化されていることと免除申請が提出されていることが条件とされます。

統一特許裁判所(UPC)はどのように機能するのですか?

UPCは申請期限が短く、すべての証拠文書をできる限り早期に提出する必要があります(前倒しシステム)。これにより事業の一部として分析を実施する完全な自由(フリーダムトゥーオペレート)の重要性が大きくなります。有効性の欠如はUPCにおける侵害訴訟の有効な抗弁(取り消しに対する反訴)となります。

単一特許とUPCはいつ開始されますか?

現在、欧州特許庁(EPO)と加盟国は単一特許と統一特許裁判所(UPC)の設立の最終段階にあります。新しいシステムはEU13か国によるUPCの承認後まもなく開始される予定です。しかし、現在いくつかの乗り越えるべき課題があります。
第1に、2016年の英国のEU離脱に関する住民投票以来多くの問題があることと、2020年7月にはこの新規の欧州特許裁判制から英国政府が離脱を表明したことがさらなる問題を生み出しています。第2に、2020年3月のドイツの連邦憲法裁判所は主に形式上の理由から同国のUPC承認を無効であると宣言したため、ドイツ議会において同国のUPCの承認について投票のやり直しが必要とされることです。
言い換えれば、UPCが効力を発する時期は確定していない一方、UPC制度を前進させる政治的意思は依然として欧州内に存在しています。

ブローマンヴィントフトはUPCを見据えています

プローマンヴィントフトの8名の欧州特許弁理士はストラスブール大学の欧州特許訴訟に関するCEIPIコースを履修しています。つまり統一特許裁判所の欧州特許訴訟証明書を取得する資格を備えています。これにより、新システムにおいても顧客サービスを提供できるように準備を進めています。8名のUPC専門弁理士の一覧は左記の通りです。

単一特許承認国

オーストリア、ベルギー、ブルガリア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデン

UPC協定批准国

オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スウェーデン

他の欧州特許庁(EPO)承認国

アルバニア、クロアチア、マケドニア、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、サンマリノ、セルビア、スペイン、スイス、トルコ

 

特許に戻ります