欧州連合商標審査基準の改正について(1)

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2016年3月23日の新規則施行発表に続き、2017年10月1日に改正規則2017/1001(EUTMR)、改正委任規則(EUTMIR)、改正施行規則(EUTMDR)が施行され、さらに改訂ガイドラインが発表されました。今回より数回に渡って改訂箇所をまとめます。

なお適用は出願日を基準に施行日以降の出願について適用され、遡って無効となることはありません。

第一回は商標の種類と出願時の方式的要件についてです。

従来より存在していた、文字、図形、形状(立体)、色彩、音についての標章が再定義されました。これらに加え、位置、模様、動き、マルチメディア、ホログラムの5つが追加されました

1.文字標章

  • 図形的要素や色彩を含まず、標準的な活字かつ配置で出願されたもの
  • 欧州連合の公用語をアルファベットで表記したもの
  • 二段以上の標章、日本語で構成される標章は文字標章とはみなされない
方式審査を通過した文字商標の例
EUTM No 6 892 351 europadruck24
EUTM No 6 892 806 TS 840
EUTM No 6 907 539 4 you
EUTM No 1 587 450 ?WHAT IF!
EUTM No 8 355 521 ΕΙΔ ΕΛΛΗΝΙΚΟ ΙΝΣΤΙΤΟΥΤΟ ΔΙΑΤΡΟΦΗΣ (ギリシャ文字)
EUTM No 8 296 832 Долината на тракийските царе (キリル文字)

2.図形標章

  • 以下のものを図形標章とよぶ。
    • 図形的要素のみ
    • 文字並びに図形または視覚的要素の組み合わせ
    • 標準文字ではない言語的要素
    • 色彩付きの言語的要素
    • ニ段以上の文字
    • 欧州連合公用語以外のアルファベット
    • キーボードで表現できない標識
    • これらの組み合わせ。
  • 色彩がある場合には色彩を含む、全ての要素を示した標章の表示を提出する
  • 具体的には、解像度96以上300以下のJPEGファイル、またはA4用紙に貼り付けたもの
  • 標章の説明は不要、例えば標章の説明で色彩を主張しても、標章見本に色彩を表示しない場合は認められない


3.
形状標章

  • 製品の外観が含まれることとなり、以前より範囲が拡大された
  • 容器、包装、製品自体、製品の外観を含む三次元形状からなる標章
  • 形状だけでなく、文字、図形、ラベルなど他の要素を含む形状を含む
  • 形状の図形的表示または写真によって提出すること
  • 図形的表示には20MB以下のOBJ、STL、X3Dフォーマットのコンピュータで作成されたものを含む。CADで作成された3Dモデルも可。
  • 国際出願とは基準が異なることに留意すること
  • ニ以上の用紙のそれぞれに三次元形状の異なる斜視図を提出した場合、一の用紙またはJPEGファイルに同一の三次元形状に係る6以上の斜視図を提出した場合には、いずれが標章の表示であるか指摘する旨を求める通知がなされる。ただし、補正によって実質的に標章を変更しない場合に限る
  • 形状に係る標章である旨を表示しない場合であって一方向からの表示のみを添付した場合には、図形標章として扱われる


4.位置標章

  • 標章が特定の方法で製品に付され、貼付されていることにより構成される標章
  • 標章の位置、および関連する商品に対する大きさまたは割合を適切に認識可能な複製物を提出しなければならない
  • 登録を構成しない要素は、破線または点線によって視覚的に示すこと
  • 商品にどのように貼付されているか、あるいは色彩の説明の追加も可能だが、標章の表示にこれらを示すこと


5.模様標章

  • 規則的に繰り返されるひと続きの要素のみによって構成される商標
  • JPEGファイルまたはA4用紙一枚によって提出する
  • 保護を求める要素、色彩、ひと続きの様について標章の説明に記載することも可能


6.色彩標章

  • 輪郭のない単色、または輪郭のない色の組み合わせのみからなる商標
  • 保護対象は、色の濃淡、複数の色の場合には、所定の均一な方法で行われた系統的配置
  • JPEGファイルまたはA4用紙一枚によって提出する
  • Pantone、Hex、RAL、RGB、CMYK等、一般的に認識されているカラーコードの記載が必須。カラーコードが記載されていない場合は、2月の期間内に補正するよう通知がなされる。


7.音の標章

  • 音または音の組み合わせのみからなる商標
  • 音と動きを組み合わせた商標は、音の標章ではなく、マルチメディアマークに分類される
  • オーディオファイル、または音符による正確な音の表示を提出すること
  • オーディオファイルはMP3形式の、2メガバイト以下のファイルにて提出する。それ以外の場合には出願がなされたものとはみなされない。ストリームやループも不可
  • オーディオファイルは、電子出願時に提出し、別途提出することできない
  • 国際出願とは基準が異なることに留意すること
  • 楽譜を提出する場合は、ピッチ、テンポ、歌詞等の全ての要素を含めること
  • オーディオファイルと楽譜の両方を提出する場合は、いずれを保持するか選択するよう求める
  • 音の標章である旨の主張を標章の説明で行うだけでなく、添付の標章の表示にて示すこと


8.動きの商標

  • 標章の要素の位置の動きまたは変化に係る商標、またはこれと文字、図形的要素、ラベル等の組み合わせに係る標章
  • 動きと音を組み合わせた標章は動きの標章ではなく、マルチメディア標章として保護される
  • オーディオビジュアルファイル、または位置の移動または変化を示す連続した一連の画像を提出すること。ビデオファイルはMP4形式でなければならず、8000 Kbps(キロバイト/秒)、20 MBを超えてはならない
  • 静止画像を提出する場合には、一連の画像に関する説明を添付する
  • 標章の表示は、電子出願時に提出し、別途提出することできない
  • 国際出願とは基準が異なることに留意すること
  • 静止画像の数は、1のJPEGファイルまたは1枚のA4シートに収まる限り制限なし。各画像には番号を付けることができ、一連の画像に関する説明を添付することができる
  • 説明は標章の表示と一致しなければならず、標章の範囲を拡張してはならない。色彩は、説明の不可欠な部分を形成する範囲で示してもよい


9.マルチメディア標章

  • 画像と音声の組み合わせからなる標章、またはこれと文字、図形的要素、ラベル等の組み合わせに係る標章
  • 画像と音声の両方を含むオーディオビジュアルファイルのみ可、オーディオビジュアルファイルはMP4形式でなければならず、8000 Kbps(キロバイト/秒)、20 MBを超えてはならない
  • 電子出願時に提出し、別途提出することできない
  • 国際出願とは基準が異なることに留意すること
  • マルチメディア標章である旨の主張は、標章の説明だけではなく、添付の標章の表示にて示すこと


10.ホログラム標章

  • ホログラフィック特性を有する要素からなる標章
  • ホログラム効果の全てを認識可能なオーディオビジュアルまたは図形・写真の表示を提出する
  • オーディオビジュアルファイルはMP4形式でなければならず、8000 Kbps(キロバイト/秒)、20 MBを超えてはならない
  • 画像の数は、1のJPEGファイルまたは1枚のA4シートに収まる限り、制限なし
  • 国際出願とは基準が異なることに留意すること
  • ホログラム標章である旨の主張は、標章の説明だけではなく、添付の標章の表示にて示すこと

 

11.その他

11.1.トレーサー標章

  • 製品に付与される色彩を有する線または筋状のものに保護を求めるもの
  • 繊維業界の製品、ホース、ケーブル等にみられ、標章の説明にトレーサー標章であることを記載すること

 

11.2.匂い・味の標章

  • 現行の技術では、出願されたイメージから匂いや味を確実に導き出すことは不可能であり、現行法では見本・標本の提出を適切な商標の説明と認めていない

 

11.3.触感の標章

  • 特定の素材や質感の触感効果について保護を求めるもの
  • 例えば、点字アルファベット、物体の特定の表面等
  • 現行の技術では、出願されたイメージから「触感」を確実に導き出すことは不可能であり、現行法では見本・標本の提出を適切な商標の説明と認めていない