優先権に関する新しいEPO拡大審判部の決定

ヘッダーイメージ: Epo.org

欧州特許庁(EPO)の拡大審判部は、G1/15として複数の優先権主張、新規性の引例となる自らの出願(「有害な優先権」)さらに新規性の引例となる自らの分割出願(「有害な分割出願」)に関する決定を公表しました。この決定は、特別な条件や制限なく、部分的な優先権は認められることを非常に明確に示しました。

この決定の背景には、自らの先の出願(「有害な優先権」)、自らの分割出願(「有害な分割出願」)、または自らの親出願を引用されて新規性違反(EPC54条(3))となる旨が示された複数の審判部の決定があります。論争を巻き起こしたこれらの決定は、これまで参照されてきた拡大審判部決定G2/98に沿ったものでした。G2/98は、先の出願と後の出願が「同一の発明」に係るものであるか否かを厳密に解釈するものでした。

例を挙げてご説明しましょう。先の出願が金属のうち「銅」だけを開示する一方、後の欧州出願は「金属」をクレームに記載しているとします。「有害な優先権」に関する複数の審判部の決定によると、先の出願と後の欧州出願が公開された場合、先の出願の「銅」の開示は、後の欧州出願のより一般的な表現「金属」の新規性欠如の引例となります。後の欧州出願のクレームの「銅」と関連する部分について「部分的な優先権」を付与されない結果、このような状況が発生します。これと同様に「有害な分割出願」に関しても、審判部は「銅」を開示する後続の分割出願の公開は、欧州出願の親出願の「金属」の新規性を欠如させるものとしていました。

しかしながら、このたび公表されたG1/15は、クレームの記載は「銅」および「銅を除く金属」の2つの部分に分けて考えられるべきであると述べています。すなわち、「金属」に係る後の欧州出願にて「銅」が明示的に言及されていなかったとしても、「銅」を含む後の欧州出願は「銅」に関してのみ部分的に優先権の利益を受けることができるというものです。「銅」が優先権の利益を受けることで、公開された先の出願によって新規性欠如とはなりません。これは、先の出願で公開された「銅」と欧州出願のクレームの残りの部分である「銅を除く金属」は重複しないことを意味しています。

この拡大審判部の決定は、この数年に渡り不透明であったこの問題に終止符を打つもので、出願人にとって喜ばしい内容です。

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